くりこま高原自然学校 佐々木豊志さんに聞く 震災乗り越え、森で「生きる力」を育む


WISE・WISEの社長が聞く vol.02
1996年に宮城県栗原市で「くりこま高原自然学校」を始めた佐々木豊志さん。自然体験を通した「冒険教育」だけでなく、森が持つ多様な価値に着目し、国産材や木質バイオマス燃料の生産などにも力を入れています。2度の震災を乗り越え、地域を復興に導く佐々木さんに話を聞きました。


佐藤:佐々木さんに出会ったのは2011年4月22日、東日本大震災の被災地にいる復興リーダーを訪ねるツアー企画でした。「くりこま高原自然学校」に泊めてもらい、復興には何が必要か、語り合った夜のことを鮮明に覚えています。

佐々木:自然学校がある栗駒は、2008年にも岩手・宮城内陸地震で大きな被害を受けました。土砂災害がひどく、自然学校の施設や地域の温泉旅館が壊滅的な状況でした。ようやく2010年秋に再開した矢先、東日本大震災が起きたのです。

佐藤:「復興への道のりは長い。一段落したら被災地の仕事はなくなってしまう。被災地が自立していけるように、仕事を通じて復興に携わってほしい」
この佐々木さんの言葉がきっかけとなり、栗駒のスギを使った家具のシリーズ「KURIKOMA」が生まれました。いまでは栗駒木材の5人の方が家具づくりに携わってくれています。

■快適な状態から一歩外へ

佐々木:私が自然学校で取り組んできたことの一つに、「冒険教育」があります。冒険体験とは、未知、ハラハラ・ドキドキ、成功するか失敗するか分からない――などという状態を体験すること。冒険の反対をC (Comfortable/快適な)ゾーンと呼んでいます。
冒険教育の目的は、自ら課題を見つけ、Cゾーンを越えて自分で行動できる「生きる力」を育むことです。
「覚える」ではなく、「考える」。そして、自ら「決断」し、「行動」する――。失敗は学びであり、小さな失敗を積み重ねることでCゾーンを抜け出すことができるのです。詰込み型の教育だけでは、「生きる力」は育まれません。

知識には、マニュアル的な「形式知」と体験によって得た「暗黙知」があります。自ら体験し、自発的に考えることによって得られる暗黙知がこの「生きる力」には重要なのです。
今回の震災では、まさに「生きる力」が試されました。Cゾーンから一歩出るか、出ないか。やるためには何が必要か。
緊急支援の段階が終わり、これから地域が生き伸びるには、やはり産業が必要です。自然学校や家具づくりのように、森林資源を活用することは、林業の活性化につながります。
森には多様な価値があります。紙資源、バイオマス、生物多様性、教育の場――。自然と共生し雇用を創出するワイス・ワイスの取り組みは、持続可能な社会づくりの一つといえるでしょう。

■問題児だった中学時代

佐藤:私もかねてから、偏差値ばかり重視する日本の詰込み型の教育には危機感を覚えています。佐々木さんはなぜ、「冒険教育」に取り組むようになったのでしょうか。

佐々木:中学時代まで遡りますが、当時の学校環境は荒れていて、私も体が大きくて声も態度も大きい、威勢の良すぎる生徒でした。中学の恩師たちは、入学したその年から学年行事を変更し、中学1年生270名を標高2038mの岩手山登山にチャレンジさせたのでした。この問題児をまともに教育するには、「教室のなかではだめだ。外に連れ出さなければ」と考えたようです。
当日は悪天候で、雨も風も強く、とにかくもくもく歩くしかない。コントロールできない自然の脅威を体験しました。それが私の野外教育の原点です。
それから、キャンプやサイクリング、田植えなどいろいろな体験をさせてもらいました。
ところが中学3年生の夏、海岸でキャンプをしていたところ、高波にのまれて同級生が亡くなってしまったのです。それはとても悲しい事故で、先生も責任を取って辞めようとしました。ですが、私たちは先生がいかに自分たちのことを考えてくれていたか十分に知っていたので、どうか辞めないでほしいとお願いしました。
そしてその時、私は教員になろうと決めたのです。それから一生懸命勉強を始めて成績も上がり、学年で10番以内に入るようになりました。進学した筑波大学では野外教育、冒険教育を学びました。

佐藤:1996年に「くりこま高原自然学校」を立ち上げられるまでは、日本テレビで働いていたのですよね。

佐々木:1982年に日本テレビに入社し、「すくすくスクール」をはじめ自然教育事業に14年ほど携わっていました。
1992年にブラジル・リオデジャネイロで「国連環境開発会議(地球サミット)」が開催されましたが、宮沢喜一首相(当時)は出席せず、国際社会から批判を浴びました。そうしたこともあって、日本人がきちんと環境について考える場をつくりたいと考え、自然学校を開くことにしたのです。

■自然学校をESDの実践場に

佐藤:「くりこま高原自然学校」の耕英寮では、不登校や引きこもりの支援も行っているそうですね。

佐々木:約200人を支援してきました。10代後半で入所してきたある不登校の男子は、畑仕事をしたり、家畜の世話をしたり、レストランを手伝ったりするなかで、だんだんと元気になっていきました。いまでは結婚もしたそうです。
別の子は、軽い自閉傾向にありましたが、ケーキやパンづくりなど得意な作業を通して、ルールを学び、社会性を身に付けていきました。
子どもは十人十色。それぞれの個性を尊重した教育が必要です。
また、自然のなかにいると、前頭前野が活発に動くので、クリエーティブな発想ができたり、心の発達にもつながったりしていきます。

佐藤:未来に向けて、どのような社会を築いていきたいですか。

佐々木:持続可能で平和な人づくり・社会づくりには、ESD(持続可能な開発のための教育)が必要です。
「くりこま高原自然学校」をESDの実践場所として、子どもたち自らが課題を見つけ、解決できる人材を育成していきたいです。

くりこま高原自然学校 代表 佐々木 豊志さんに聞く
◆佐々木豊志
一般社団法人くりこま高原自然学校代表理事。1957年、岩手県生まれ。筑波大学で野外教育を専攻後、日本テレビで野外教育事業に取り組む。1996年に「くりこま高原自然学校」を開校。2008年に岩手・宮城内陸地震で被災し、地域活性化プロジェクトを実施。その一部門としてNPO法人日本の森バイオマスネットワークを立ち上げた。

- 2015年08月06日